2006年 09月 05日 ( 1 )

「ガウディの伝言」

 「ガウディの伝言」(外尾悦郎 光文社新書264)読了。十数年前、スペイン旅行に際して、バルセロナに関する本を読み漁っていた時に出合ったのが筆者です。ガウディの設計したサグラダ・ファミリア教会の彫刻を担当している日本人がいることを知って驚きました。残念ながら絶版なのですが、「バルセロナ石彫り修業」「バルセロナへおいでよ」(筑摩書房)という本ですが、バルセロナでの暮らしや職人の働き振りを生き生きと伝えてくれる好著です。利潤のためではなく自分が納得するために、好い加減に楽しそうに仕事をこなす職人の姿には感銘を受けました。
 さて本書は、彼のガウディに対する思いを綴ったものです。実際の制作にたずさわる職人の眼で見た、サグラダ・ファミリア教会やガウディに関する話は迫真の力を持っています。頭で考えた芸術論や建築論とは一味も二味も違います。建物にある機能が必要になった時、構造を補強する形で設置するとともに、象徴としてのデザインをほどこす。例えば、柱を補強する亀の彫刻が、雨樋の役目を果たすとともに、「亀のようにゆっくりと、この教会をつくっていこう」というガウディのメッセージを伝える。うーん、成程。これは現場にいる人間でないと見えてこないことですね、勉強になりました。もちろん、ガウディの人生や作品、時代背景など過不足なく叙述されています。ガウディに興味のある方でしたら、必読の一冊。そうでなくともお薦めです。彼の職人に対する態度など、人間に関する叡智と情愛に心を打たれます。今流行の凡百な組織論や経営論をつめこむよりも、彼のやり方から多くのことが学べるはずです。長文ですが、引用します。
 ものをつくる人間をダメにする確実な方法は、全体を考えさせず、細かい作業をひたすら義務としてやらせることです。そうするともう、現場での新しい発想が生れてこなくなるだけでなく、いかに手を抜くかということばかり考える人が現れ、図面どおり100パーセントのものすらできなくなる(また、そもそもの図面に誤りがあった場合にも、職人たちの直観によって、それが「おかしい」と指摘されることも起こりにくくなります)。そうして作業を急がせれば急がせるほど、杜撰なものができ上がっていく。

 サグラダ・ファミリアの建築現場で、今日まで死亡事故が一件も起きていないのも、職人たちが自ら考え、意欲的に仕事をしてきたことと無関係ではないと思います。…事故というのは往々にして、人間を機械のように働かせるときに起こるものです。
 私の上司に読ませてあげたいな。特に最後の一文は、昨今多発する不注意による事故の原因を読み解く上で参考になると思います。
 ガウディは路面電車に轢かれてなくなってしまうのですが、その日に彼はこう言ったそうです。
 ガウディは1926年の6月7日、サグラダ・ファミリアで過ごした最後の日の夕方、ミサに出かける前に、仕事を終えた職人たちに向かって言いました。私はその一言に込められていた精神が、その後の建設をも支え続けてきたような気がします。
 「諸君、明日はもっと良いものをつくろう」
 なおバルセロナ・オリンピックの時に、サグラダ・ファミリア教会が世界に紹介されて以来、旅行客の寄付や入場料によって、現在の資金はかなり潤沢のようです。そして2020年代での完成をめざすと教会が公言しているとのこと。もしかすると、完成された姿を生きているうちに見られるかもしれません。ただ、1980年代より、工事のスピードアップと費用節約のため、石ではなくてコンクリートによってつくっているようです。やむを得ない面も多々あるでしょうが、確かな技術をもつ石工を育てる機会が減ってしまうのではないかと、杞憂します。ま、いずれにせよ、生甲斐がまた一つ増えたぞっと。本日の一枚は、そのときの旅行で撮影したガウディ設計のカサ・ミラ(バルセロナ)です。
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by sabasaba13 | 2006-09-05 06:06 | | Comments(4)