2006年 12月 11日 ( 1 )

「旅する巨人宮本常一」

 「旅する巨人宮本常一 にっぽんの記憶」(読売新聞西部本社編 みずのわ出版)読了。民俗学者の宮本常一氏については何回も言及していますので、割愛します。本書は、昭和二十年代から五十年代にかけて彼が西日本の旅先で撮影した写真を収録するとともに、それを写した場所や写っている人物を新聞記者が探し当てるという内容です。まず惹かれるのは、氏が撮影した写真の多彩さと暖かさと豊穣さです。遊ぶ子ども、昼寝をする子ども、蒲鉾をつくる職人、農協の告知板、工場の開業式、離島に赴任してくる先生を港で待ちわびる人々。いろいろな地域で生きる人々の息遣いが伝わってくる写真の数々です。そうした何気ないけれど大事な光景や人物に気づく彼の目には感嘆します。そして地方に暮らす人々が人間的な豊かさを手にするためには、何を変えるべきで何を変えてはいけないのか。住民とともに必死に考える彼の姿が目に浮かぶし、そのためにこそ学問は存在すべきであるという彼の主張も聞こえてくるようです。彼の言葉です。
 「橋でもかかるといいのですが…」と島の人がこぼすから、「その気になりなさい。わずか300メートルの海に橋のかからぬこともありますまい。ただその橋を観光目あてにかけたのでは意味がない。でき上がった橋がほんとに役にたつ産業をもつことでしょう。お互いに考えてみようではありませんか」とはなしたのであった。
 そして新聞記者が探し当てた場所の変貌ぶりにも驚きます。地方を植民地のような状況に落としいれ収奪し搾取したのが、高度経済成長のほんとうの姿なのだなと思いました。ま、これは近代を通して変わらぬこの国のあり方なのですが。救いは、撮影された方々の変わらぬ笑顔です。
 小泉軍曹・安倍伍長による構造改革路線(宮本氏でしたら“あくどい商業主義”と言うでしょう)によって地方が奈落の底に落ちつつある今でこそ、読む価値がある本です。
 なお氏の故郷、周防大島には文化交流センターには、氏が残した写真十万枚がデータベースとして整理されているそうです。彼の暖かさを育んだこの島を、いつか訪れてみたいと思います。
by sabasaba13 | 2006-12-11 07:36 | | Comments(2)