2006年 12月 21日 ( 1 )

「労働ダンピング」

 「労働ダンピング -雇用の多様化の果てに」(中野麻美 岩波新書1038)読了。一読、言葉を失いました。日本の労働現場はここまで凄惨な状況になっていたのか… いくら働いても自立して生きられない低賃金労働や、生活できる水準の収入を得るために死ぬほど働かなければならない長時間労働の拡大。文字通り、人間の労働を買い叩くダンピングです。有期雇用・派遣・パート・偽装請負など、生々しい現状についてのレポート、これは万人必読の書です。ジョージ・オーウェルが教えてくれた文章の心得を守りたいので野卑むき出しの言葉遣いは避けますが、こうした状況を放置する今の日本って悪魔のような国ですね。偽装請負の事例を一つ紹介します。
 人材請負会社Dを通じて働くYさんは、過酷な労働のなか、背中左側に激痛が走って筋肉が硬直し身動きができなくなった。供給先の班長らはその報告を受けても救急車を呼ぶことすらしなかった。Yさんは約一時間は立ったまま、その後40分間は座らされて放置された。請負なら労働者を指揮監督するために常駐しているはずの請負事業者の責任者はいなかった。結局Yさんは、D社の担当者が到着してからワゴン車の床に寝かされて病院に搬送されたが、入院費を含めた治療費は自費で支払うよう求められ、高額な医療費は支払えないので入院を断って痛みをこらえて帰宅した。
 利潤と効率をひたすら追求する企業と、規制緩和によってそれを後押しする自民党・公明党・官僚。その結果がこれです。クレヨンしんちゃん風に言うと、「おめーに"美しい国"なんて言われたくねえよ」 あっ野卑すれすれですね、自戒自戒。
 是正策にも多々ふれられていますが、注目したいのはアメリカやイギリスで追及されてきた「リビング・ウエッジ(生活賃金)条例」です。これは、自治体と契約する業者と、市の施設を賃借したり、助成金の交付を受けるなどの契約関係にある者については、条例で定める労働基準などの遵守を契約の条件にするというものです。なるほど、これは実現可能にして効果が期待される方法だと思います。ふと思いついたのですが、これをさらに進めて、労働基準を遵守している企業を市民団体が認証し、目印となるマークを進呈するというのはどうでしょう。
 とても紹介しきれないほどの充実した内容なので、ぜひご一読ください。そして中野麻美氏(NPO派遣労働ネットワーク理事長・日本労働弁護団常任幹事)の真摯にして人間的な姿勢と行動、志の高さについても敬意を表します。
 最後に長文ですが、ぜひ紹介したい一文を引用します。
 人間は、じっくり現実を見、最も利益となる選択を模索しようとする。生きるために生活の安定を求めるからこそ、時代の急激な変化を前にして保守的で受け身になってしまう。市場原理主義に抵抗する力が削がれていくのは、「弱い自分を忘れてしまった「豊かさボケ」」のせいではなく、現実のあまりの厳しさを十分すぎるほど認識しているからではないのか。それを打開したり、壁を打ち破る力を育てたり、連帯する機会を持てたりすることがなくなっているからではないだろうか。競争には人の心をコントロールする魔力があり、そこから増幅される差別や暴力が人格的尊厳を損なうものであればこそ正面から向き合うことを難しくさせることも影響している。多くの人たちが、無理矢理気持ちを切り替え、差別や暴力を受け容れ、あるいはそれをなかったことにして生きてきた。現実に真正面から向き合う力を育て、現実の壁に向かって挑んでいくために自らを組織することには筆舌に尽くしがたい葛藤と努力を強いられるものだ。
 日本の産業社会に未来があるとすれば、それは、競争による敵対と排除によるのではなく、働き手を大切にする協働のシステムを構築できるかどうかにかかっている。
 教育基本法改悪の一つの狙いは、子どもたちから壁を打ち破る力と連帯する機会を奪い、子どもたちに競争原理を徹底的に叩き込み、そして差別や暴力を受け入れあるいは見て見ぬふりをする大人にすることなのでしょう。違いますか、安倍伍長?

 追記。政府の経済財政諮問会議(議長:安倍伍長)などで「労働ビッグバン」に関する議論が本格化しているようです。労働派者遣法「改正」(偽装請負を野放しに)、ホワイトカラーエグゼンプション(長時間労働の許容+残業代ゼロ)、解雇の金銭解決制度(解雇の自由)などがその内容ですが、やれやれ政財界諸氏は「労働者とゴマの油は絞れば絞るほど出るものなり」と考えておられるようです。いじめの定義を「自分より弱いものに対して、一方的に身体的・精神的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの」だとすると、これは疑いなく、そしてきわめて悪質な“いじめ”です。大人の社会でこれだけ壮大にして凄絶ないじめが行われているのですから、子どもの社会でいじめがなくなるわけがありません。子どもって、大人の言うことではなくすることをまねて育つのですから。
 それにしても日本国民ってどれくらいなめられ足蹴にされたら怒るのでしょう。ま、とりあえず、こうした動きを推し進める御手洗富士夫氏が会長をつとめるキャノンのカメラは絶対に買わないことにします。
by sabasaba13 | 2006-12-21 06:13 | | Comments(0)