2007年 03月 15日 ( 1 )

「ヘルター・スケルター」

 「ヘルター・スケルター」(岡崎京子 祥伝社)読了。美容整形をくりかえして人工的な美女へと変身したアイドル・りりこの、(文字通りの)崩壊を描いたマンガです。岡崎氏のマンガははじめて読みましたが、なかなかその画風は魅力的ですね。スクリーン・トーンをほとんど使用せず、白を基調に黒をアクセントとする画面構成は、まるでビアズリーの版画のようです。そしてシンプルですが微妙にうねる、表現力に満ちた線描。登場人物たちの、怒り、憎しみ、悲しみ、絶望といった感情を、一本の線で見事に活写しています。
 薬物を乱用しながら、ファンの要望に応えるために心身を破滅させるような整形をくりかえすりりこ。これは、わたしたちの「欲望」の醜さを暴いたマンガかもしれません。
 みんな何でもどんどん忘れてゆき ただ欲望だけが変わらずあり そこを通りすぎる 名前だけが変わっていった
 りりこを破滅へと追い込んでいったのは、匿名の“みんな”なのでしょう。さて、次のりりこは、一体誰、あるいは何なのでしょう。地球かな。
 なお、りりこが失踪した後、部屋には彼女の眼球が残されています。柳田国男が「一目小僧その他」の中で、片目を損傷する行為は、常人と区別するための聖痕を生贄につけるものだと述べていたような記憶があります。「欲望」という神にわが身を捧げるというメタファーなのかもしれません。
 タイトルが何故ビートルズの名曲(「ホワイト・アルバム」に収録)なのか? 「これがビートルズだ」(中山康樹 講談社現代新書1653)に紹介されている定説によると、音楽評論家がザ・フーを「やかましいだけのロックンロールで聴く価値なし」と書いたのに対して、ポールが「最高に騒々しくてダーティーなロックンロールを書いてやろう」と作ったそうです。騒々しくてダーティーな匿名の“みんな”にふさわしい曲ですね。どういう状況の中で、この曲が流れるかはお楽しみに。
by sabasaba13 | 2007-03-15 06:23 | | Comments(0)