2007年 03月 16日 ( 1 )

「『敗者』の精神史」

 「『敗者』の精神史(上・下)」(山口昌男 岩波現代文庫)読了。「『挫折』の昭和史(上・下)」の続編です。著者の意図ですが、結びの部分で明快に述べられているので、長文の引用をします。
 本書で説いて来たのは、日本近代の公的な世界の建設のかたわらに、公的世界のヒエラルヒーを避けて、自発的な繋がりで、別の日本、もう一つの日本、見えない日本をつくりあげて来た人がいたということである。…二十一世紀に日本が生き残るために見習わなければならないのは、これら「敗者」の視点で日本近代を見つめて生きた人々である… 第二次大戦に敗れた日本人の中からこの敗者の視点が出て来なかったのは不思議という外はない。勝者に自己同一化し、こっそりと藩閥政府が作りあげたヒエラルヒーを温存するための組織を復活し、がむしゃらに突っ走り、破綻を来たしたのが今日の日本人の姿である。頭を冷やして、心から納得のいく生き方を探し出す作業の手がかりとして、本書において対象とした人たちのモデル(範型)を見つめるのは決して無駄ではない。いや敢えて言えば、そうした無駄こそが我々が必要としているものであるかも知れない。
 登場するのは、淡島寒月、小杉放庵、小川芋銭、山本覚馬、甲斐庄楠音といった普通教科書では触れられることもない一癖も二癖もある面々です。キーワードは、韜晦、遊戯精神、反権力、低エントロピー、脱世間、知的コミュニティとネットワーク。大部の書なのでとても要約できませんが、世間の栄達に背を向けた万華鏡のようなさまざまな知的営みには感嘆します。いかに小国として上手に落魄していくかが、これからの日本の重要な課題の一つだと常々思っていますが、その道しるべに満ち満ちている本です。簡単にいえば、環境に負担をかけず、他人に迷惑をかけず、金がかからず、面白い暇潰しをみんなで手を取り合って見つけよう、ということかな。もちろん、破壊と殺戮と不公正と貧困に満ちた世界の現状から目を背けて、小宇宙に閉じこもることは許されません。“心から納得のいく生き方”の中に、世界との関わりをどう組み込んでいくかについては、関心を持ち続けたいと思います。
by sabasaba13 | 2007-03-16 06:12 | | Comments(0)