2007年 11月 02日 ( 1 )

「金子勝の食から立て直す旅」

 「金子勝の食から立て直す旅 -大地発の地域再生-」(金子勝編著 岩波書店)読了。各地を旅していて、地方の衰微と疲弊にしばしば愕然とします。人気のない目抜き通り、シャッターの閉まった商店街、次々となくなっていく公共輸送機関、廃校となった小学校…。なす術もなく立ち竦み、己の無力さを思い知ることもありました。そしてこの事態と同時進行しているのが、第一次産業の衰退だと思います。その一方で輸入食材を中心に飽食が進むとともに、BSE(牛海綿状脳症)問題に見られるように、政府は食の安全を平気で投げ捨てていく。国防上の安全保障は、声高に叫ぶのにね。地方と農業を再生する動きや良いプランはないのだろうかと漠然と思っていたときに、出会ったのが本書です。碩学・金子勝氏が各地をまわって、安全で美味しい農作物を作り、必死に地域を立て直そうとしている人々を訪ねた、良質のルポルタージュです。
 その苦闘や悲しみ・喜びの詳細については、ぜひ本書を読んでいただくとして、金子氏の心に残る言葉を引用します。
 (本書に)登場する人物たちは、みな人口数千からせいぜい二~三万人の町や村で、日々、古いものとの緊張関係を持ちながらドラマを作っている。しかし、みな異口同音に自分たちがやっている試みは、「二〇年後、三〇年後に達成されればいい」と言う。自然相手だから人間の力は限られており、いつも静かな時間の流れる農山村の地だからこそ、そう思うしかないのだろう。気が遠くなるような時間の流れの中で、彼らはずっと夢を抱き続けている。実は、この思考時間の長さこそ、今の日本社会が失ったものの中で、何より一番大事なものではなかったのか―そういう想いが幾度となく頭をよぎった。
 良い言葉だなあ。しみじみと味わいたいと思います。すぐに利潤という結果を出そうとし、未来や子孫のことを一顧だにしない短絡的な思考と行動が、今の日本と世界を破壊しているのだなあとつくづく思いました。遠い未来を見据えて、安全な食を作ろうと努力している方々に敬意を表するとともに、その食材を入手していきたいと思います。どう考えても、命を支える食物を輸入に頼るというのは尋常な行為ではないでしょう。身近な地域でつくられた農作物だったら安全性をチェックできるし、何よりも新鮮です。また輸出する側にしてみれば、食糧メジャーや大企業によるモノカルチャー強制から抜け出せるかもしれません。
 そして嬉しかったのが、氏が自らを我が敬愛する宮本常一に擬しておられることです。各地の情報を、媒介者としていろいろな土地に伝えていくという仕事ですね。そう、今何よりも大事なのは、中央から発進される画一的な情報ではなくて、地方と地方を結ぶネットワークによって伝え合う情報だと思います。がんばれ、金子さん! 私も、これからは旅する先々で、農業・漁業・林業について凝視していく所存です。
by sabasaba13 | 2007-11-02 06:08 | | Comments(0)