2007年 11月 14日 ( 1 )

「食品の裏側」

 「食品の裏側 みんな大好きな食品添加物」(安部司 東洋経済新報社)読了。最近、食品業界の不祥事に関する報道が過熱していますが、うんざりします。もちろん賞味期限や素材のごまかしを弁護するつもりは毛頭ありませんが、賞味期限が切れた赤福を食べて死んだ方はいるのでしょうか。こうした小悪・中悪よりも、多くの人の健康と暮らしを害している食品添加物について、腰の据わった根性のある報道をメディアはするべきだと思います。例えばアレルギーやアトピー性皮膚炎に苦しむ人がとみに増えていると思いますが、その原因の一つは添加物の多量摂取にあるのではないかな。行政は重々承知の上で、見逃しているような気がします。そんなことを考えている時に出会えたのが本書、『美味しんぼ』(週刊ビッグコミック・スピリッツ連載中)でその存在を知り、こいつは面白そうだと即購入しました。
 著者の安部氏は食品添加物の専門商社に勤めていた元エリートサラリーマンで、添加物を売り歩くセールスマンをされていた方です。よってこの業界の裏の裏まで知り尽くしており、難しい化学の話なぞ一切抜きで、素人にも分かりやすくその問題点を指摘してくれます。何故氏はエリートの道を捨てたのか、このあたりはなかなかドラマティックなので詳述します。ある日、幼い愛娘がミートボールを美味しそうに頬張っているのを見て、氏は衝撃を受けます。それは氏が特売用商品としてメーカーから依頼を受けて開発したものだったのです。牛の骨から削り取った端肉に安い廃鶏(卵を産まなくなった鶏)のミンチ肉を加え、ソフト感を出すために組織状大豆たんぱくを加え、旨味を出すためにビーフエキス・化学調味料を、歯ざわりを滑らかにするためにラード・加工でんぷんを、作業性をよくするために結着剤・乳化剤を、色をよくするために着色料を、保存性をあげるために保存料・pH調整剤を、色あせを防ぐために酸化防止剤をそれぞれ加えます。それにからめるソースは氷酢酸を薄めてカラメルで黒くし化学調味料を加えてつくり、ケチャップはトマトペーストに着色料で色をつけ酸味料を加え増粘多糖類でとろみをつけてつくります。つまり産業廃棄物のくず肉と添加物のかたまりだったのですね。その結果、原価は20円か30円、そして売値は1パック100円。これが大ヒットし、氏は家計を助け食品産業に発展にも役立つと自負を深めます。しかし愛娘がそれを食べているのを見た瞬間に、彼は気づきます。これは自分の子供には食べてほしくない。一睡もせずに悩んだ翌日、氏は退社を決意します。

 サラリーマン時代の、食品業者に何とかして添加物を売り込もうとする手練手管も面白いのですが、何といっても安全性に対する疑念の指摘が勉強になりました。国が認可しているとはいえ、あくまでも動物実験の結果なので本当に人体にとって安全かどうかはわからない。複数の添加物を摂取することによる人体への影響については全く確認できない。そして添加物が危険であると知ってのうえでしょう、行政・業界が一丸となって、できるだけ添加物に関する表示を簡略化しようとする。例えば一括表示。「香料」や「乳化剤」など、同じ目的のために使われるのであれば一括して表示していいよと食品衛生法で定められています。例えばキャリーオーバー(原材料からそのまま持ち越される添加物)。焼肉のたれの原材料には醤油を使うが、この醤油に含まれる添加物は表示しなくていい。例えば加工助剤。加工食品をつくる際に使われた添加物のうち、食品の完成前に除去されたり中和されたりしたものは「加工助剤」とみなされ、表示しなくてもいい。またバラ売り(包装していないもの)や、店内で製造・販売するものは、添加物を表示しなくてもいい。
 そしてこうした事態の共犯者が、安価で保存がきき見た目が良くて調理が簡便で不自然な美味しさの食品を求める私たちです。

 さて著者の提言です。まずは生産者が食品添加物に関する情報公開をきちんと行うこと。そして消費者はそれをもとに上手に食品とつきあうこと。添加物を一切とらないのは無理だし、多くの利点もあるのだから、表示をよく見て加工度の低いものを選び、安いものにとびつかず、一週間と言うスパンで考えて添加物の摂取をおさえる。小難しく考えずに、台所にないもの=添加物と考えればよいという指摘には納得です。
 また安全性のほかに、添加物をとりつづけると舌が麻痺し天然の味がわからなくなる、また安易に食べ物がつくられ、安く簡単に手に入ると錯覚してしまう、という危険も述べられています。最近、食育という言葉をよく耳にしますが、この問題にまで立ち入っているのかどうかは、わかりません。しかし避けては通れない問題ですね。アル・ゴア氏言うところの「不都合な真実」はここにもあります。今できることは、添加物に関する情報公開の確立と、添加物の塊みたいな食品は売れないのだぞと、私たちが業界に思い知らせることでしょう。ただ、健康で安全な食生活をおくるには、ある程度の収入と、精神的・時間的なゆとりが必要です。労働者を使い捨て生存ギリギリの暮らしを強いる現状が変わらない限り、危険だけれど安価で簡便な食品を食べざるを得ない人は減らないでしょうね。大変参考になる本でした。お薦めです。
 なお、著者が状況を変えて「日本人の心を取り戻す」べきと言われているのには、違和感があります。日本の伝統料理(そんなものがあると仮定して)は、世界に冠たるものだという狭量なナショナリズムの匂いを感じます。地域にある食材を使って安全で美味しい料理をつくってきたのは、別に日本人だけではないと思います。ここは「人間の心を取り戻す」と言い換えてほしいな。
by sabasaba13 | 2007-11-14 06:07 | | Comments(0)