2008年 12月 19日 ( 1 )

「進化する多国籍企業」

 「進化する多国籍企業 いま、アジアでなにが起きているのか?」(末廣昭 岩波書店)読了。いま世界はどうなっているのか、何故そうなったのか、これからどうなるのか/どうすればいいのか、それについて調べ考えるのを自らの課題としています。その際に絶対に外せないキー・プレイヤーが多国籍企業でしょう。折にふれ機会を見つけて多国籍企業に関する本を読んでいきたいなと常々思っているのですが、たまたま出会ったのが本書です。アジア経済を研究している著者が、進化する多国籍企業の動向が、アジア諸国の企業と産業にどのようなインパクトを与えているのかについて考察されています。
 なにせ私、経済や経営に関する知識が決定的に欠落しております。しかし本書によって、20世紀末に起きた企業の大きな変化について知ることができました。一言で言うと、日本の製造企業がこれまで比較優位を誇った「生産方式の競争」から、アメリカを主たる発信地とする「ビジネス・モデルの競争」の時代への移行です。消費者の多様化した嗜好への柔軟な対応、比較優位を発揮できる分野の選択と集中、ビジネスの仕組みの中でのコスト削減、従業員など企業の関係者(ステイクホルダー)ではなく株主の利益を重視、といった特徴ですね。単純な言い方をすると、これらを全地球的な規模で実行・実現しているのが現代の多国籍企業です。こうした企業はタイをどう位置づけているのか、そしてタイの政府・企業、そして何よりも人々はこれにどう対応しようとしているのか。株価を上げるためなら世界中の人々の尻毛をすべて抜いてしまうことも厭わない怜悧な多国籍企業の跋扈に対する、冷静な視線と叙述が光ります。
 なお自由化と多国籍企業によってもたらされた雇用の不安定化と労働強化に対抗するには、地域レベルでの労働の安全基準や生活保障を含む「社会憲章」(ソーシャル・チャーター)の実現が必要だという主張には共感します。結局、ある国で労働者を保護すると、企業は安く酷使できる労働者を求めて他の国に工場を移転してしまいます。よってかなり広域的なレベルで労働者保護を打ち出さないと意味はありません。なるほどチャーティスト運動の再現か、少し光明が見えてきました。
by sabasaba13 | 2008-12-19 06:05 | | Comments(0)