2009年 04月 16日 ( 1 )

アイルランド編(30):サンディコーヴとジョイス博物館(08.8)

 それではコノリー駅に向かいましょう。歩いて十分ほどで到着、ジョイス博物館のあるサンディコーヴ駅に行くため、ダブリン市内と郊外をダブリン湾沿いに南北に結ぶ列車DART(Dublin Area Rapid Transport)に乗り込みました。
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 リフィ川を渡って列車は南下、しばらくすると左側にダブリン湾が見えてきます。乗客はけっこういたのですが、携帯電話の画面を食い入るように凝視し慌しく親指を動かしている人はほとんどいませんでした。これはヨーロッパどこに行ってもそのようですね、携帯電話は単なる道具、ご主人でも責め具でも人間関係を代替するものではない、という意識をしっかりともっているように見受けられます。特に子どもが所持している場面はまったくといっていいほど見かけません。親が持たせないのか、法的規制があるのか、それとも子ども自身が全く興味を持っていないのか、ぜひ知りたいところです。携帯電話によってスポイルされている日本の子どもたちが可哀相。三十分弱で到着、駅構内には博物館までの案内図がありました。小さな駅舎を出て右に行くと、もう町の目抜き通りです。
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 サンディコーヴはAvocaと同じく、こぢんまりとした愛らしい街でした。いつ雨が降っても慌てふためくまいと腹はくくっていたのですが、幸いなるかな、晴天が続いています。太陽の光を受けて鮮やかに息づく緑の芝生、きれいな花で飾られた窓やドア、見ているだけで足取り軽くスキップを踏みたくなります。
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 しばし歩いて左に曲がるとすぐ正面に海が見えてきました。海岸沿いの気持ちよい歩道を右方向に歩いて行くと、ずんぐりとした石造り円筒型の塔が前方の岬のあたりに見えてきますが、これがジョイス博物館です。そして到着、駅から三十分とみておけば余裕のよっちゃんでしょう。
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 この塔は正式にはマーテルロー・タワー(Martello Tower)と言いまして、1804年から1806年にナポレオン軍の侵攻に備えた見張り台+要塞として、イギリス海軍がアイルランド東岸一帯15箇所に建てたものです。しかし結局侵攻は行なわれず、マーテルロー・タワーはそのまま放置されました。ここにある塔はその後賃貸住宅として利用され、ジョイスの友人であるオリバー・ゴーガティが住んでいました。ジョイスは1904年8月、恋人ノーラ・バナクルと駆け落ちする4カ月前に、彼に招かれ六日間をここで過ごします。その時、同じく客として来ていた英国人サミュエル・トレンチは興奮しやすい性格かつ夢遊病者で、夜中にヒョウがいると叫んで暖炉に向って銃を数発撃ったそうです。ゴーガティは「おれにまかせろ」と言って銃を取り、ジョイスの頭上にあったフライパンの列めがけて銃を発砲しました。ジョイスは翌朝この塔を去り二度と訪れることはなかったということです。この経験をもとに『ユリシーズ』の第1章「テレマコス」は書かれたわけですね。なお小説では、ゴーガティはバック・マリガンとして、サミュエル・トレンチはヘインズとして、そしてジョイス自身はスティーヴン・ディーダラスとして登場します。その後1962年にパリで最初に『ユリシーズ』を出版したシルビア・ビーチが、ジョイスゆかりのこの塔をジョイス博物館としてオープンしました。
 近くから見上げるとまるで化石となったプリン、ほとんど窓がなく堅牢そのものです。さあそれでは入館料を払って、中に入ってみましょう。一階では、『ユリシーズ』の初版本、恋人ノーラへあてた手紙、彼のステッキやチョッキやギター、デスマスクなどが展示されています。
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 二階はジョイスが『ユリシーズ』で描写したそのままのレイアウトに復元されていました。がらんとしただだっ広い空間に粗末なテーブル・椅子・ベッドとハンモックがあるだけの、何とも殺風景な部屋です。さらに狭いらせん階段を上ると円形の屋上(かつては砲座)に出られます。ダブリン湾やサンディコーヴの町並みを一望できるなかなかの絶景。さきほどの部屋で感じた虚無感を吹き飛ばすように、一陣の涼風が肌をなでていきました。『ユリシーズ』では「彼はいかめしく歩み出て円形の砲座にあがった。くるりと向き直り、三度、塔と、まわりの土地と、目覚めかけた山々をおごそかに祝福した」と描かれている場所です。なお一階にはミュージアム・ショップもあり、Tシャツとダブリン市内にあるジョイス物件を紹介するを大型絵葉書を購入。
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 本日の五枚です。
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by sabasaba13 | 2009-04-16 06:10 | 海外 | Comments(1)