2010年 03月 15日 ( 1 )

「強欲資本主義」

 「強欲資本主義 ウォール街の自爆」(神谷秀樹 文春新書663)読了。
 「誰かが金をなくすからバクチになるんだが、ま、勝ったり負けたりってとこだろうよ、みんな」 「勝ち続ける人もいるでしょう」 「いるかもしれねえ。だがそういう奴は金の代わりに身体をなくしている。そんなもんだ」 「勝ち続けて、丈夫な人もいるんじゃないの」 「そういう人はきっと、人間をなくすんでしょうな」 (映画『麻雀放浪記』より)
 暴走のあげくに破綻したマネー・ゲーム、そして金融危機とグローバル恐慌の到来。とにかく恐れ慌てることなく、今何が起きているのか冷静に見極め、できるだけ大きな視点から資本主義世界経済の来し方行く末について考えていきたいと思います。本書はニューヨークで活躍する投資家・神谷秀樹氏が、狂乱したマネー・ゲームの仕掛け人であるウォール街の銀行家・投資家の実態、そしてそうした事態の原因や経過について、ど素人にもわかりやすく解き明かしてくれる内容です。なにせ氏は、住友銀行からゴールドマン・サックスへ転職して、ウォール街で働いていた方ですから、その言にもリアリティと臨場感が満ち満ちています。さてチューリヒの子鬼ならぬウォール街の大鬼諸氏はいったいどういう方々で何をしたのか。

 まず氏の基本的なスタンスには大いに共感します。「金融マンは実業を営む方たちの脇役に徹するべきだ」(p.15) 銀行は、知恵と人脈をフルに活用し顧客にアドバイスをしながら金を貸して、有望な会社を手塩にかけて育てるというのが本来の仕事だったはず。しかし、現在では、自らが投資家となって、市場を相手に最大収益を上げるための金融機関、というよりはばくち打ちへと大変身してしまいました。それを先導したのがウォール街の銀行家・投資家たち、というわけです。例えば、企業に融資する際に、新製品の開発といったグロース・ファクター(不確実な成長性)は無視して、いかにコスト・カットに尽力しているかのみを考慮に入れる。なるほど、日本でも吹き荒れているリストラや派遣切りの原因はこのあたりにありそうですね。他にも、企業を安く買い叩き高く売りぬいて稼ぐ、あらゆるものを証券化して荒稼ぎをする、などなど。そこには未来を築くための投資という発想は微塵もなく、ギャンブルまがいのえげつないやり方でただただ目先の現金を稼ぐことがすべてです。それでは、なぜこうしたことになってしまったのか? 氏は、二つの国の政府が世界にばら撒いた過剰流動性と、強欲で無節操な金融機関が結びついたことに原因があると見ておられます。レーガノミックス以降、財政赤字・貿易赤字の「双子の赤字」を垂れ流し続けているアメリカ政府と、ゼロ金利を放置し、低金利で安い円を借りて海外の高金利資産に投資する円キャリー取引を促進させた日本政府ですね。氏曰く「過剰流動性と強欲な人間が結びつくことは、経済にとっては歴史上もっとも最悪のコンビネーション」、このコンビがあたかも世界を制したかのように振舞った時間が、余りにも長く続いてしまったことが「強欲資本主義」を生み出したとされています。その結果、浜矩子氏の言葉を借りれば(「グローバル恐慌」 岩波書店1168)、ヒトやモノとの関係を断ち切られた危ない正体不明の金融商品が世界中に満ち溢れ跳梁跋扈し、それに恐れ慌てた人々がリスク回避のためにそれらを押しつけ合い、そして投資を手控えるようになった。つまり危ない金融商品が「過剰生産」され、買い手がつかなくなり、それらが値崩れを起こし、市場が崩壊した…

 世界システムという視点からの分析や歴史的な経緯への考察が物足りなく思いましたが、マネー・ゲームという修羅場のことがよくわかりました。また、「浪費に頼った経済成長政策」を批判するとともに、少子高齢化が急速に進みつつある日本では市場規模が縮小し経済も縮小してゆくのは当然であり、どのように縮小均衡点を見出してゆくのかということこそが、経営テーマなのだ、という指摘には思わずはたと膝を打ちました。環境破壊と資源の枯渇をもたらす大量生産+大量消費+大量廃棄という現代資本主義の宿痾をとりのぞくためにも、できるだけ痛みを伴わない、伴ったとしても公正・平等なかたちでの「経済縮小政策」をどうやって推し進めるのか。日本の、いや人類の叡智が問われていると思います。
 苦言を一つ。「日本人の魂」「日本人の伝統的な美徳」「日本人の…利他の心や徳を重んじる高貴な精神」といった空疎な美辞麗句が散見されることには違和感を覚えます。仮にそんなものがあったとしたら、現状のような事態にはなっていないと思うのですが。世界から「強欲資本主義」をなくすために必要なのは、「民族」の魂・精神・美徳ではなく、世界中の人々が納得できるかたちでの公正なルール設定と違反者へのペナルティを科す"実力"の創出でしょう。

 追記。「強欲な投資銀行家たちがプレーするゲームの結末は、いつも同じである。最後に尻拭いさせられるのは、納税者に決まっているということだ」(p.84)という指摘とともに、日本がからんだ事例を紹介されています。以下、引用します。
 かつて、巨額の不良債権を抱えて経営破綻した日本長期信用銀行(現新生銀行)は国有化され、公的資金を投入して健康な体に戻して、リップルウッド・ホールディングス(現RHJインターナショナル)に十億円で売却された。長銀には総額で八兆円近い公的資金が投入され、このうち三兆円以上が戻らずに国民負担となった。
 またリップルウッドに売却された際に「瑕疵担保条項」という契約が盛り込まれていた。将来、長銀が持つ債権が不良債権となった場合には、無条件で国が引き取ることにもなっていた。国が引き取るといっても、お金は国民の税金から支払われる。「ババ」を自動的に納税者に回すあざといシステムで、「この条項がなければ買えない」と相手は主張したという。
 リップルウッドは、このシステムをフル活用した。国は、この「ババ」を買い取るために、新たに八千八百億円を税金で支払っている。
 ババをさんざん納税者に押し付けたあと、リップルウッドは二〇〇四年に新生銀行を再上場させ、二千二百億円以上の利益を得た。リップルウッドが新生銀行を再上場させるまでに投じた資金は一千二百億円強。投資としては大成功だ。
 しかも、日本にまったく税金を支払わずに、利益を持ち帰ったのである。実際に長銀を買い取ったのは、リップルウッドなどの投資家グループがオランダに設立した投資組合「ニューLTCBパートナーズ」だった。日本政府は外資に対する二重課税の問題から、売却益に課税できなかったからだ。(p.138)
 また小泉軍曹か…
by sabasaba13 | 2010-03-15 06:10 | | Comments(0)