2013年 01月 02日 ( 1 )

「集団的自衛権とは何か」

 『集団的自衛権とは何か』(豊下楢彦 岩波新書1081)読了。朝日新聞(2012.12.18)によると、衆議院選挙当選者のうち、集団的自衛権の行使に賛成する議員が79%にのぼるそうです。失礼ですが、現在の日米関係において集団的自衛権を行使すれば、どういう事態を招来するのか理解されているのでしょうか。いや、それ以前に、私たちしがない庶民を守る気がほんとうにあるのでしょうか。いささか疑問に思います。本書を読んで、しっかりと勉強していただきたいものです。
 本書は、『安保条約の成立』(岩波新書)や『昭和天皇・マッカーサー会見』(岩波現代文庫)など、戦後の日米関係を研究する史家・豊下楢彦氏の著作です。まず集団的自衛権とは、同盟を結んだ国への攻撃を自国への攻撃と見なしそれを阻止すること、と定義できます。これまで日本政府は、「…わが憲法の下で、武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない」としてきました(p.6)。これを改憲あるいは、解釈改憲によって行使できるようにしよう、アメリカへの攻撃は日本への攻撃、日本への攻撃はアメリカへの攻撃と見なし合うようにしようというわけですね。さてその問題点は何か。著者の論点は多岐に渡りますが、私なりに整理すると次の三点です。(1)安倍伍長の持論である「安保ただ乗り論」、安保条約は、米国は日本を守るために「血を流す」のに対し、日本は米国のために「血を流す」体制になっていない片務的なものであるという認識は正しいのか。(2)現在の日米関係は、日本側の主体的判断を許すような「対等な戦略的パートナー」なのか。(3)アメリカ外交の基調および日米関係から考えて、日本が集団的自衛権を行使するとどのような事態が起こりうるか。
 まず(1)ですが、アメリカは占領期に獲得した特権を持ったまま在日米軍基地を維持することを、安保条約における最大の根幹と考えています。それでは、現状における在日米軍と自衛隊の任務は何か。軍事アナリスト・小川和久氏の分析によれば、日本はペンタゴン(国防総省)最大のオイルターミナルであり、佐世保の弾薬庫が地球の半分をエリアに米海軍が置く最大の陸上弾薬庫であり、あるいは嘉手納の弾薬庫を管理する米空軍中隊が米軍で最大の弾薬整備中隊であり、世界最大最強の艦隊である米第七艦隊は、ほかならぬ日本がその全存在を支えています。そして日本に展開するアメリカの空軍、海軍、海兵隊の航空機(戦闘機や攻撃機)のうち防空任務についているものは一機もなく、在日米軍基地をテロやゲリラの攻撃から守るのは陸上自衛隊であり、さらに海上自衛隊は日本のシーレーンを防衛しているだけではなく、補給物資を運び込む米軍のシーレーンをも守っています。つまり、在日米軍の最大の任務は、日本の防衛ではなく、世界の半分をカバーする米軍の戦略展開のための最大拠点であり、むしろ自衛隊の最大の任務は米軍基地の防衛にあたること。どう見ても片務的とは言えませんね、安保にただ乗りしているのは米軍のようです。豊下氏は皮肉っぽく次のように述べられています。
 あえて安倍のレトリックを使うならば、米国の若者は日本を守るために「血を流す」のではなく、逆に日本の若者が在日米軍を防衛するために「血を流す」構造になっているのが安保条約の現実に他ならない、という訳である。(p.119~20)
 それでは(2)はどうでしょう。詳細については本書を読んでいただくとして、基本的に、「周辺事態(※日本の平和と安全に重要な影響を与える事態)」の認定が実質的に米国によって行なわれ、しかも米国からの要請には「ノーと言わない」という立場を日本政府はとっています。米国が「周辺事態」と認定すれば、日本は"無条件"で協力するということですね(p.94)。はい、「対等な戦略的パートナー」どころではありません。「安保再定義」についての国際政治学者・スタンレイ・ホフマンの言を借りれば…
 日本が引き続きアメリカ外交政策の従順な道具になる。つまり、独自の対中政策を持つことなくアメリカの信頼できるジュニア・パートナーであり続けるだろうという仮定を前提にしたもの…(p.97)
 そして(3)、アメリカ外交の基調はブッシュ・ドクトリンに象徴されます。「脅威が増大すればするほど行動しないことの危険性が増大し、かくて、たとえ敵の攻撃の時間と場所が不確定な場合であっても、我々を防衛するために先制的に行動する」、いわゆる先制攻撃論ですね。もっとも豊下氏は、レーガン政権によるグレナダ侵攻(1983)や、ブッシュ・シニア政権によるパナマ侵攻(1989)など、これは米国外交における"伝統"であると指摘されています。そして、ある「脅威」に対抗するために、米国が"手段"として利用してきた主体が新たな「脅威」として登場し、それを先制攻撃するという「脅威の再生産」が行われてきました。イラクのフセイン、アルカイダを率いるビン・ラディン、ともに重要な同盟者としてアメリカが育て利用し、やがて制御不能なモンスターに"成長"してしまいました。このように、アメリカの「敵」の設定は同国の都合によって絶えず変動するわけです。すると、もし日本の集団的自衛権の行使が容認された場合、米国が次々と設定する「敵」との戦争に日本も参加を強いられることになるわけですね(p.233~4)、やれやれ。ここからは私の推測ですが、そうなると恐らく多くの無辜の人々が米軍・自衛隊連合軍によって殺され、当然の如く日本がテロ(弱者の戦争)のターゲットにされることでしょう。これだけ核(原子力)発電所を抱えたお国ですから、致命的な打撃を与えるのは容易です、やれやれ。さらに貧しい若者たちが戦場へと駆り立てられ、殺し殺され、最終的には徴兵制の復活へとつながるのかな。

 というわけで、私は「集団的自衛権の行使」はきわめて危険を孕んでいると考えます。しかし、それを主張する自民党や諸政党に、多くの有権者は投票したわけですね。やれやれ。先日読み終えたセリーヌの『夜の果ての旅』(生田耕作訳 中公文庫)にこんな一節がありました。
 のんきに構えちゃおれぬ! おまけに人類の凶悪な倦怠の中で、貧乏人を閉じ込めた穴倉からいつなんどき踊り出すかわからぬ戦争。貧乏人をどれだけ殺せば気がすむのか? やれるものならやってみな。何もわからん連中を皆殺しにすれば気がすむのか? そのときには、またお代わりが、新手の貧乏人が生まれてくるだけさ、そして同じことをくりかえすうちには、いつかはこの悪ふざけを理解する連中が、この悪ふざけを完全に見抜く奴が現われるだろう…ちょうど芝生を刈りつづけているうちに、草がすっかり上等に、柔軟になるように。(下p.201)
 追記。冒頭で、「集団的自衛権の行使」を主張する当選議員たちに、"私たちしがない庶民を守る気がほんとうにあるのでしょうか"と書きましたが、本書に下記のような指摘がありましたので、紹介します。ほんとだよね。
 仮に、報復攻撃を無意味とし、自らが壊滅することを覚悟して、北朝鮮が保持するノドンのすべてをもって攻撃してくる場合を想定するならば、日本海沿いの原子力発電所が最大のターゲットとして狙われることになるであろう。日本の原発は、震度八の地震にも耐えうる設計と言われるが、2006年度の資源エネルギー庁の「原子力広報ページ」によれば、「原子力発電所に対するミサイルなどの兵器による攻撃についての設計基準は設けられておりません」とのことである。さらに同年末の経済産業省の「有事における原子力施設防護対策懇談会報告書」によれば、「弾道ミサイルに有効に対処し得るシステムは未整備」と明記されている。つまり、完全な無防備状態なのであり、ノドンが直撃した場合の惨禍は想像を絶するものであろう。ところが実に奇妙なことに、すでに配備が完了したと言われる沖縄の嘉手納基地と埼玉県の入間基地を含め、PAC-3の配備計画によれば、霞ヶ浦、習志野、武山など米軍や自衛隊の基地が対象であって、原発周辺への配備は全く計画されていないのである。(p.128)

 仮に、北朝鮮によるミサイル攻撃を具体的な脅威と捉え、かつ真に国民の安全を考えるのであれば、米国に向かうミサイルを迎撃するためのシステム整備に膨大な税金を投じたり、集団的自衛権の解釈変更を求める前に、まずやるべきことは、日本海側の「原発銀座」をミサイル攻撃から防衛する体制を急ぎ構築することではないのであろうか。それこそが、「自主憲法」を制定しようとするにあたっての、最低限の「気概」なのではなかろうか。さもなければ、集団的自衛権の"全面解禁"を軸にすえた「自主憲法」も、結局のところは、今日の米国の国益を背景とした新たな「押しつけ憲法」という評価を受けることになるのではなかろうか。(p.130)
 しかし安倍伍長率いる自民党・公明党にそれをする気配はありません。それどころか、原発の再稼働に前向きのようです。なぜなんだろう??? 庶民の命を守る気はまったくないか、あるいは北朝鮮は絶対に日本に向けてミサイルを撃たないと確信しているか、そのどちらか、あるいは両方でしょうね。後者だとしたら、ぜひその理由を答弁してほしいものです、伍長。

 追記。後日に読んだ『8・15と3・11 戦後史の死角』(NHK出版新書388)で、笠井潔氏が述べられていたのですが、日本を破滅させるためにはミサイルや核兵器を使うまでもないのですね。以下、引用します。
 政治家もマスコミも声を揃えて、北朝鮮の核武装は脅威だという。だが、本当の脅威は北朝鮮の核攻撃ではない。福井や新潟の海岸に軒を連ねる原発こそが、最大の脅威だ。北朝鮮が日本海岸の原発を目標として、高速艇や潜水艇で特殊部隊を送りこんできたらひとたまりもない。旧式ミグ機による自爆攻撃でも同じことだ。原発の破壊による放射能汚染で、日本列島は壊滅するだろう。9・11以降の世界内戦のリアリティからすれば、これは想定しなければならない最悪の可能性である。(p.156~7)

by sabasaba13 | 2013-01-02 07:40 | | Comments(10)