2014年 09月 12日 ( 1 )

錦織選手とユニクロ

 いやあ、錦織圭選手の大活躍、すばらしかったですね。場末の一テニス・プレーヤーとしてたいへん嬉しく思います。決勝は完敗でしたが、疲労のためでしょうか、いつものフットワークではなかったように見受けられました。これは個人的な持論ですが、ミス・ショットの多くはフットワークに起因していると考えます。打点を微調整するための細かいフットワークができていなかったようです。でもトップ10の選手たちを次々と倒して決勝戦に進出できたことは大きな自信につながったでしょう。これからの試合が楽しみです。
 と、前置きはこれくらいにして、インターネットを見ていたらこんなニュースが目に入りました。(毎日新聞14.9.7) 「錦織決勝進出 ウエアもラケットも売り切れ状態」 えっ、目を疑いましたが、次のような記事が続いていました。"「錦織さんのウエアありますか」。錦織圭選手とスポンサー契約を結んでいるユニクロの銀座店(東京都中央区)には、7日午前11時の開店前から買い物客が店の前に集まった。同社が先月25日から販売する錦織選手のポロシャツのレプリカ商品を買い求めるためだ" 驚き桃の木山椒の木、ブリキに狸に蓄音器、ですね。彼が全米オープンの決勝に進出したことと、錦織モデルのポロシャツを買うことには、どんな関係があるのだろう??? 錦織選手の価値(値段)が上がった→日本人の価値(値段)が上がった→日本人である自分の価値(値段)も上がった、という喜びを表現するためにそのポロシャツを買って着るのでしょうか。よくわかりません。凄いのは彼なのであって、別に日本人全体が凄いというわけではないのにね。
 もう一つ釈然としないのは、ユニクロという、若年労働者を酷使して弊履の如く使い捨てる企業の製品を、何の疑問もなく購入することです。先日読んだ『限界にっぽん 悲鳴をあげる雇用と経済』(朝日新聞経済部 岩波書店)の中に、下記のような一文がありました。
 「燃え尽きてしまった」。20歳代の男性の元社員はユニクロの日々を振り返る。会社が決めた月間勤務時間の上限は残業も含めて計240時間だが、とても仕事を消化できない。パソコン上で入力する出退勤時間を上限内に収まるよう日々「調整」し、残業代が出ない「サービス残業」の毎日だった。繁忙期の勤務は300時間を超えた。
 半年おきの「店長代理資格」の取得試験も苦痛だった。何回受けても通らず、「次第に給料を下げられ、最後は入社時より年収で50万円ほど減った」。本部や、複数店舗を統括する幹部たちから日常業務について指示を受けると、言い訳しにくかった。「詰められ方が非常に厳しい。僕たちは『追及』と呼んでいた」。
 周囲には、うつ病になって突然出社できなくなる同僚がいた。「このままでは自分も精神状態がもたない」と退職を決めた。
 別の東海地方の20歳代の元店員も、膨大な仕事量と店長代理資格取得の重圧に押しつぶされそうだった。勤務時間中も仕事の合間にレジ打ちやミシンの練習、店舗レイアウトも研究した。休日も暇があれば厚さ10センチほどのマニュアルの勉強に費やした。入社八カ月後に「うつ状態」と診断され、退職した。
 同社の新卒社員が入社後三年以内に退職した割合(離職率)は、06年入社組は22%だったが、07年入社組は37%に、さらに08~10年の入社組は46~53%と高まっていった。直近の入社組は、同期のおよそ半分が会社を去る計算になる。休職している人のうち42%がうつ病などの精神疾患で、これは店舗勤務の正社員全体の3%にあたる。
 社員を酷使する「ブラック企業」との批判は、こうした中で高まってきた。(p.117~8)
 新入社員の半数近くが、三年以内に退職してしまう。これはどう考えても真っ当な企業ではありません。なお同書で、ユニクロ(ファーストリテイリング)の会長兼社長である柳井正氏は、インタビューにこう答えておられます。
-離職率が高いのはどう考えていますか。
「それはグローバル化の問題だと思っている。10年前から社員に言ってきた。将来は、年収一億円か100万円に分かれて、中間層がどんどん減っていくと。これは世界的な傾向で、自分の仕事を通じてそれなりの付加価値がつけられないと、途上国の低賃金で働く人の賃金にフラット化。年収100万人の方になっていくのは仕方がないよと。そうならないように勉強をしてもらっている。例えば、店で付加価値をつけられるのは店長だから、店長には販売員を指示したり、情報システムを駆使して売れ筋商品を売ったりして、儲けてもらう。店長は一つの店舗の経営者としてがんばってもらわないといけない」
-それができなかった人が転職する、場合によってはうつになったりする。
「そういうことだと思う。日本人にとっては厳しいかもしれないけれど。でも海外の人は全部、がんばっているわけだ。韓国の人も中国の人も、米国の人も。その中で日本人ががんばらなかったらどうなるか。僕が心配しているのは、途上国から海外に出稼ぎに行っている人がいる。それも下働きの作業員のような仕事で。グローバル競争のもとで、他国の人ができない付加価値をつくり出せなかったら、日本人もそうやって働くしかない」 (p.161~2)
 なるほど、確信犯だったのですね。将来的に、世界中の労働者は年収一億円か100万円に分かれていく。付加価値をつけた労働者は年収一億円も夢じゃない、つけられなかった労働者は年収が100万円でも、うつ病になっても、転職に追いこまれても仕方がない、というわけですか。付加価値とは、企業の利益を上げる能力のことでしょう。売上げ向上に貢献した錦織選手には臨時ボーナス一億円、それほど貢献しなかった車椅子テニスの国枝真吾選手には優勝したにもかかわらず臨時ボーナスなし、という差別も納得です。世界中の労働者をどん底への競争に追いたて、その苛酷かつ非人間的な競争に敗れた労働者を容赦なく切り捨てるユニクロ。いくら錦織選手にあやかりたいからとって、そんな企業の製品を躊躇なく買っていいものでしょうか。疑問を感じます。
 そしてそのような企業ユニクロとスポンサー契約を結んでいる錦織選手の見識にも、疑問を感じます。社会に与える影響力を考えると、トップ・プロたる者、契約を結ぶ企業は慎重に考慮して選ぶべきだと思います。労働者を酷使して使い捨てる企業と契約を結び、莫大な契約量とボーナスを手に入れるのは、人間としていかがなものか。テニス・プレーヤーである前に、人間であってほしいものです。
by sabasaba13 | 2014-09-12 06:30 | 鶏肋 | Comments(4)