2019年 05月 03日 ( 1 )

『ブラック・クランズマン』

c0051620_17132124.jpg 『ブラック・クランズマン』という映画が面白いと、『週刊金曜日』の映画評で紹介されていたので、さっそく山ノ神と一緒に、イオンシネマ板橋で見てきました。
 まずは公式サイトから、あらすじを引用します。
 1970年代半ば、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署でロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は初の黒人刑事として採用される。署内の白人刑事から冷遇されるも捜査に燃えるロンは、情報部に配属されると、新聞広告に掲載されていた過激な白人至上主義団体KKK〈クー・クラックス・クラン〉のメンバー募集に電話をかけた。自ら黒人でありながら電話で徹底的に黒人差別発言を繰り返し、入会の面接まで進んでしまう。騒然とする所内の一同が思うことはひとつ。KKKに黒人がどうやって会うんだ? そこで同僚の白人刑事フリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)に白羽の矢が立つ。電話はロン、KKKとの直接対面はフリップが担当し、二人で一人の人物を演じることに。任務は過激派団体KKKの内部調査と行動を見張ること。果たして、型破りな刑事コンビは大胆不敵な潜入捜査を成し遂げることができるのか―!?
 人種差別の実態とそれへの批判をテーマとしながらも、コミカルな場面、スリリングな場面も程よく織り交ぜた良い映画でした。さすがは『マルコムX』などをつくった名匠スパイク・リー監督です。黒人刑事ロン・ストールワースを演じた、名優デンゼル・ワシントンを実父にもつジョン・デヴィッド・ワシントンの演技も素晴らしい。人種差別に対する怒りを胸に秘めながら、沈着冷静に捜査を進める主人公を見事に演じていました。彼は同時に、警察の内部から差別をなくしていこうとします。黒人活動家のガールフレンド・パトリスに彼はこう言います。「もし、黒人の警官が内側から世界を変えようとしたらどう思う?」 彼女は(彼を警官だとは知らず)あっさりとその理想を切り捨てます。「そんなの無理」 ロンの相棒となる白人刑事フリップ・ジマーマン役を演じたアダム・ドライバーもいいですね。彼はユダヤ人で、ロンと協力していくうちに、差別に対する意識が変わっていきます。話が進んでいくにつれて周囲の白人警官たちのロンを見る目が変化して差別意識がなくなり、協力関係が生まれていくのが爽やかでした。ロンの理想が少しだけ実現したのかなと、嬉しく思いました。
 老いた黒人が、黒人学生に昔話を語る場面がありましたが、プログラムを読んで驚きました。気づかなかった、ハリー・べラフォンテが演じていたのですね。彼は公民権運動に積極的に参加したそうです。その話とは、1916年にテキサス州ウェイコで起こったリンチ事件です。17歳の黒人少年ジェシー・ワシントンが白人女性のレイプ殺人で逮捕され、死刑判決を受けましたが、裁判所前に集まった1万人を超える群衆は死刑判決が待ちきれず、ジェシーを拉致して市庁舎前広場で、手足の指と性器を切り取り、鉄鎖で木からぶら下げて、その下で薪を組んで生きたまま火あぶりにしました。苦しみが長引くように、ジェシーは時々引き上げられました。死体は夜まで市中を引き回され、バラバラに切り刻まれて、群衆は肉片を土産に持ち帰りました。ああ…
最後の場面では、裏返しの星条旗が白と黒で描写され、アメリカにおける差別の歴史と現状が表現されます。そして2017年のシャーロッツヴィルで起きた悲劇の現場に置かれた文字、「憎しみからは何も生まれない」が大写しとなって映画は静かに幕を閉じました。エンディングで流れる曲は、故プリンスが歌う黒人霊歌「Mary Don’t You Weep」。百年以上にわたって黒人たちを慰め励ましてきた曲だそうです。
 なお正式なタイトルは「BLACKkKLANSMAN」ですが、“BLACK”は「黒人」、KkKは“Ku Klux Klan(クー・クラックス・クラン)”、KLANSMANはKKKのメンバーのことです。つまり「黒人(black)がKKKのメンバー(Klansman)になる」という意味なのですね。

 十二分に楽しめ、そして重いものが心に残る映画でした。それにしても何故人は差別をするのでしょう。自分がいつか差別をする可能性、あるいは今差別をしているのに気づかない可能性を含めて、考えていきたいと思います。そのヒントとなる一文に最近出会えました。『もっと言ってはいけない』(橘玲[あきら] 新潮新書799)から引用します。
 アイデンティティ(共同体への帰属意識)は、「俺たち」と「奴ら」を弁別する指標でもある。それに最適なのは、「自分は最初からもっていて、相手がそれを手に入れることがぜったいに不可能なもの」だろう。黒人やアジア系は、どんなに努力しても「白い肌」をもつことはできない。これが、中流の崩壊とともにアメリカの貧しい白人たちのあいだで「白人アイデンティティ主義(白人至上主義)」が急速に広まっている理由だ。彼らは「人種差別主義者」というよりも、「自分が白人であるということ以外に誇るもののないひとたち」だ。(p.35)
 なるほど、これは首肯できる味方です。私たちの社会でも、「自分が日本人であるということ以外に誇るもののないひとたち」が増えているような気がしますが、いかがでしょう。
by sabasaba13 | 2019-05-03 07:22 | 映画 | Comments(0)