2019年 05月 06日 ( 1 )

『記者たち』

c0051620_2284782.jpg 『記者たち 衝撃と畏怖の真実』という映画が面白そうです。「スタンド・バイ・ミー」の名匠ロブ・ライナーが、イラク戦争の大義名分となった大量破壊兵器の存在に疑問を持ち、真実を追い続けた記者たちの奮闘を描いた実録ドラマだそうです。これはぜひ見に行かなくては。山ノ神も快諾、二人で日比谷にあるTOHOシネマズシャンテに行って見てきました。
 まずは公式サイトからあらすじを引用します。
 2002年、ジョージ・W・ブッシュ大統領は「大量破壊兵器保持」を理由に、イラク侵攻に踏み切ろうとしていた。新聞社ナイト・リッダーのワシントン支局長ジョン・ウォルコット(ロブ・ライナー)は部下のジョナサン・ランデー(ウディ・ハレルソン)、ウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)、そして元従軍記者でジャーナリストのジョー・ギャロウェイ(トミー・リー・ジョーンズ)に取材を指示、しかし破壊兵器の証拠は見つからず、やがて政府の捏造、情報操作である事を突き止めた。真実を伝えるために批判記事を世に送り出していく4人だが、NYタイムズ、ワシントン・ポストなどの大手新聞社は政府の方針を追認、ナイト・リッダーはかつてないほど愛国心が高まった世間の潮流の中で孤立していく。それでも記者たちは大義なき戦争を止めようと、米兵、イラク市民、家族や恋人の命を危険にさらす政府の嘘を暴こうと奮闘する…
 煮えたぎるような熱いジャーナリスト魂を小気味よく描いた秀作です。この当時、真実を報道しようとしたメディアがいかに孤立していたか、痛いほどわかりました。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストといった大手新聞をはじめ、アメリカ中の記者たちが大統領の発言を信じて誤った報道を続けていたのですね。「ペンタゴン・ペーパーズ」を暴いたワシントン・ポストよ、お前もか。そして傘下の新聞社からは記事の掲載を拒絶され、オフィスには匿名の脅迫メールが届き、身内からも裏切り者呼ばわりされる。
 しかし彼らは家族や恋人に支えられながら、真実の報道を追い求めます。余談ですが、ジョナサンの妻ヴラトカを演じたミラ・ジョヴォビッチに惚れました。旧ユーゴ出身という設定で、国家権力の恐ろしさを骨の髄まで知っている彼女は、「なぜ盗聴に気をつけないの」と旦那を叱責します。それはさておき、取材の方法も実話に基づいた興味深いものでした。政府高官の話はプロパガンダであることが見え見えなので、現場で働く下級のスタッフに小まめに電話をかけて取材をくりかえします。こうした地道な努力が真実へと至る道なのですね。
 そしてこの映画の主役は、何といってもロブ・ライナー監督が自ら演じる支局長ジョン・ウォルコットです。部下たちを厳しく、時には優しく叱咤激励しながら、民主主義のために政府の嘘を暴き真実を伝えようとする彼の姿には感銘を覚えました。彼の言です。
 他メディアが揃って政府の速記者になりたがるなら、勝手にやらせろ。

 政府が何か言ったら、記者として必ずこう問え。“それは本当か”

 私たちは子どもを戦争に送る人たちのために報道しているのではない。子どもを戦争に送られてしまう人たちのために報道しているんだ。
 最後の科白と共鳴するかのように、愛国心に駆られてイラク戦争に志願し、負傷によって下半身不随となって黒人青年のことがサイドストーリーとして描かれているのも見事です。

 それにしても十数年前に起きた国家権力による犯罪を、映画にしてしまうアメリカ社会の底力には頭が下がります。また国家権力と闘い真実を報道しようとするジャーナリストを描いた映画がつくられていることもお手本にしたいところです。『大統領の陰謀』しかり、『ペンタゴン・ペーパーズ』しかり。そういえば韓国でも、『共犯者たち』や『スパイネーション/自白』など、国家権力と闘うジャーナリストを描いた秀作がつくられています。なぜ日本ではこうした映画がつくられないのでしょうか。ま、“政府の速記者”を描いても面白い映画にはならないでしょうが。頑張れ、日本のジャーナリスト。

 追記です。『週刊金曜日』(№1222 19.3.1)にこういう記事が掲載されていました。
WIMNが政府に抗議声明 望月衣塑子記者にエール 宮本有紀

 安倍政権が、官房長官会見における『東京新聞』の「特定の記者」(望月衣塑子氏を指す)の質問内容を「事実誤認」とし、質問妨害などした行為について、「メディアで働く女性ネットワーク(WiMN)」が2月25日、「安倍政権による記者の弾圧・排除やこれらを正当化する閣議決定に抗議する」声明を発表した。
 声明は「『特定の記者』は約1年半、質問する順番を後回しにされ、質問中のは数秒おきに何度も『簡潔にお願いします』などと言われて制止され、妨害」されたこと、政府側が「質問が『事実誤認』『度重なる問題行為』であるとする『問題意識の共有をお願い申し上げる』との『申し入れ』を内閣記者会の掲示板に貼り出す」などしたことを「特定の記者をつるしあげ、その排除に記者クラブを加担させようとしているよう」と批判。「政府によるジャーナリストへの弾圧、言論統制そのものであり『特定の記者』を超えて、ジャーナリスト一人一人に向けられた『刃』」であると指摘し、「安倍政権は(略)直ちに記者に対する弾圧・排除をやめ、記者会見を正常化することを強く求め」ている。
 財務事務次官によるテレビ朝日記者へのハラスメントをきっかけに昨年結成されたWiMNには現在45社123人が参加。望月氏も会員だ(公表済)。代表世話人の林美子氏は「ジャーナリズムに携わる集団として、今回の事態に強い危機感を持っている。取材先や組織内でのセクシャル・ハラスメントや女性蔑視により、女性記者が仕事をしにくくなる状況と通底するものを感じる。この事態を見過ごせば、私たちの仕事の基盤が根底から揺らぐ」と話す。そして「ターゲットとされた望月記者を心から応援したい。一人ひとりの記者がその能力を十全に発揮できることが、日本の民主主義にとって不可欠だ」と強調した。(p.9)
 こうした事実や動きを知り、ジャーナリストを応援することが、政府の嘘を暴き、民主主義を守ることにつながるのだと思います。頑張れ望月記者、そしてWiMN。
by sabasaba13 | 2019-05-06 07:23 | 映画 | Comments(0)