2019年 11月 02日 ( 1 )

福井・富山編(48):中野重治記念文庫(16.3)

 また『日本の百年7 アジア解放の夢』(ちくま学芸文庫)に、特高の拷問で殺された小林多喜二への、魯迅による弔電が載っていました。1933年2月20日、非合法組織の同志と会うために都内の路上にいた所を、スパイの通報によって逮捕され、築地警察署の特高による拷問で同日に彼は殺されました。三時間の拷問で殺されたことから、持久戦で転向させる気など特高になく、明確な殺意があったのでしょう。『昭和史発掘4』(松本清張 文春文庫)には、その死体の様子が述べられています。
 医学博士安田徳太郎の指揮で死体の検査がはじまったが、頸には一まき、ぐるりと細紐の痕があった。よほどの力で絞めたらしく、くっきり深い溝になっている。頭には左コメカミの二銭銅貨大の打撲傷を中心に五、六ヵ所も傷痕があった。だが、さらに帯を解き、着物をひろげ、ズボンを脱がせたとき、一同は思わず顔をそむけた。
 毛糸の腹巻に半ば覆われた下腹部から左右の膝頭にかけて、下腹といわず、尻といわず、前も後もどこもかしこも、まるで墨とベニガラ(※酸化鉄を原料とする赤い顔料)をいっしょにまぜ塗り潰したような、何ともいえないほどの陰惨な色で一面に覆われている。その上、よほど大量な内出血があると見えて、腿の皮膚がぱっちり割れそうにふくらみ上がっている。そしてその太さが普通の人間の太腿の二倍もある。さらに赤黒い内出血は陰茎から睾丸におよび、この二つのものが異常な大きさにまで腫れ上がっていた。よく見ると、赤黒く膨れ上がった腿の上には左右とも、釘か錐かを打ち込んだらしい穴の跡が十五、六以上もあって、そこだけは皮膚が破れ、下から肉がじかに顔を出している。その肉の色が、また、アテナインキ(※丸善が販売していたペン用のインク)そのままの青黒さで、他の赤黒い皮膚面からはっきり区別されている。―と江口渙(あきら)はそう記している。
 「これまでやられては、もちろん、腸も破れているであろうし、膀胱もどうなっているか分らない。解剖したら腹の中は出血で一ぱいだろう」と、安田徳太郎が言った。(p.91)
 魯迅が送った弔電は、以下のものです。
同志小林の死を聞いて
 日本と支那との大衆はもとより兄弟である。資産階級は大衆をだましてその血で界をえがいた、またえがきつつある。
 しかし、無産階級とその先駆たちは血でそれを洗っている。
 同志小林の死はその実証の一だ。
 われわれは知っている。われわれは忘れない。
 われわれは堅く同志小林の血路に沿って前進し握手するのだ。(『プロレタリア文学』 1933年4・5合併号)
 魯迅に対する、藤野厳九郎の教育、内山完造の援助、改造社のエール、ケーテ・コルヴィッツの触発。そして魯迅からの、中野重治への激励、小林多喜二への弔意。国境や民族を超えた友愛と友情のネットワーク。人類を同胞としてみるこうした思想が戦争を食い止め、平和をもたらすのでだと確信します。
 しかし、"大衆をだましてその血で界をえがき"たい、大衆同士を敵対させて他国を蹂躙し、自国の利益=自分の利益を増やしたい資産階級にとっては、目障りで厄介なネットワークです。そこでこれを切断/分断するために、「ナショナリズム」を煽りたてるのでしょう。ジョージ・オーウェル曰く、"人間が昆虫と同じように分類できるものであり、何百万、何千万という人間の集団全体に自信をもって「善」とか「悪」とかのレッテルが貼れるものと思い込んでいる精神的習慣"です。オール・ジャパン=善、オール・チャイナ=悪。この陥穽にいともたやすくはまってしまう人があまりに多いのが悲しいのですが、この魯迅を核とする人類同胞のネットワークを思い起こすことで解毒剤にしたいと思います。
by sabasaba13 | 2019-11-02 07:19 | 中部 | Comments(0)