それでは平地の道をシルス・マリアへと戻りましょう。噂の馬車とは、ホテル前で遭遇しました。やがて小川に沿った小道となり、時々立ち止まっては美しい風景を写真撮影。何人ものハイカーやサイクリストとすれ違いましたが、みんな幸せそうです。
ところどころにベンチも設置されており、眺めの良いものを選んで座り、ホテルからくすねてきたパンをいただきました。 クラスタ(Crasta)を通り過ぎ、足の向くまま気の向くまま、朝とは違う道を選んで村へと戻ることにしましょう。森の中に入ると、樹の株に顔の木彫がありました。途中にあったホテル「ヴァルトハウス」は1908年の創業で、静けさとクラシックな雰囲気を気に入り、ヘッセ、ユング、シャガールも泊まったそうです。 この頃から一天にわかにかき曇り、剣呑な雰囲気になってきました。ほんとうは村の外れにあるロープウェイに乗って、標高2311mのフルチェラス(Furtschellas)へのぼり、眺望を楽しみたかったのですが、潔く撤退した方がよいでしょう。案の定、バスを待っていると、激しい雨が降り始めて地表を洗い、雹まで落ちてきました。いやはや、ハイキングの最中だったらえらい目に会っていたところです。私の強運と山ノ神の神通力、その見事なコラボレーションの結果ということにしておきましょう。 本日の五枚です。 #
by sabasaba13
| 2015-10-31 05:28
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さあそれでは出発。空を見上げると、雲が切れ、青空が広がり始めています。天下無双の晴れ男、ここに見参です。山々や森やゆるやかにうねる丘陵を眺めながら小道を歩けば、心も体もリフレッシュ。うーん、空気もおいしい。しばらくすると、「TOI TOI」と記された簡易公衆トイレがありました。これはトイレットと、幸運・成功を祈るドイツのおまじないの言葉「トイトイトイ(toi toi toi)」をひっかけたのでしょうか。ちなみに言葉に合わせて、テーブルや扉を3回トントントンと指で叩きます。
小川にかかる木橋から、アルプスや集落を一望できる絶景を写真撮影。橋を渡ると、家畜用の木製水飲み場がありました。あるお宅のガラス窓の向こうに山羊の姿が見えます。何という名の花なのでしょう、紫色のきれいな野草が咲き乱れていました。 クラスタ(Crasta)という集落には、ロマネスク様式の古い教会があります。中には16世紀初頭に描かれたフレスコ画があるそうです。何でも宗教改革時に漆喰で白く塗り潰され、20世紀になって発見されたとのこと。ガイドブックによると、隣にあるホテル・ゾンネの受付で鍵を借りて内部を見学できますが、幸いドアが開いていました。中に入って貴重なフレスコ画を拝見しました。 少し先に分岐点があり、このまま平地を行くか、谷を見下ろしながら山の中腹を歩くかの選択を迫られます。往路は山中を、復路は平地を歩くことにしましょう。道に迷わぬよう、木々にペンキで白‐赤‐白の印が塗られていますが、国によっていろいろな意匠があるのですね。向こうの谷では牛飼いのおじさんがお仕事の真っ最中でした。 坂道をおりて川を渡ると、ホテル・フェックスに到着です。部屋数は15室、人里離れたホテルとしては大きな規模でレストランも併設されています。せっかくなので、ホテルのレストランで珈琲をいただきひと休みしました。雄大な谷と遥かなる山なみ、そこに佇むシックなホテル。いいなあ、本をしこたま持ち込んで、一週間ほど長逗留してみたいものです。山と谷を眺めて、本を読んで、ビールを飲んで、散歩して、昼寝して、美味しい食事を食べて、また本を読んで、山と谷を(repeat)…そういう旅も悪くないですよね、うん。 本日の五枚です。 #
by sabasaba13
| 2015-10-30 06:33
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朝目覚めて、外へ出るとどんよりとした曇天。しかし奇跡のように雲間から一条の光が差し込み、山の頂を真っ赤に染め上げました。ほんとうに美しいモルゲンロート(Morgenrot)でした。
それにしても素晴らしい眺望です。思い出のためにパノラマ写真を撮っておきました。 朝食のバイキング会場へ行くと、日本人団体客の長い長い長い長い行列ができています。やれやれ。係の方が申し訳なさそうに、「オムレツもあります」と教えてくれました。やった。さっそくマッシュルーム、コーン、ベーコンetc.全部入りのオムレツを二つ注文。これは美味でした。パンもホテルで焼いているらしく、香り高い味を楽しめました。外を眺めながらパンを頬張っていると、ぽつぽつと小雨がふってきました。やれやれ。やがて添乗員さんの「パスポートを忘れずに、8:00にロビー集合」というお触れとともに三々五々部屋に戻られて行きます。ということはベルニナ急行の特別列車を仕立てて、イタリアのティラーノ(Tirano)まで行くのでしょうか。この天気ではお気の毒です。われわれは明日、ベルニナ急行に乗る予定ですが、天候は大丈夫でしょうか。なお団体客向けに用意してあった炊飯器とみそ汁は、すぐに片づけられました。 郷に入れては郷に従え、われわれは現地の料理をできるだけ食べるようにしています。とは言っても、最近はケバブが多いのですが。あまりに美味しかったので、帰り際に昼食用のパンを三ついただきました。部屋に戻って身支度をすませ、トレッキング・シューズを履いて、さあ出発です。幸い、雨も上がりました。 まずはアンリ・マチスの絵のようなエンガディン・バスに乗ってシルヴァプラーナへ。郵便局前のバス停で乗り換えるバスを待ちます。郵便局の窓に貼ってあった営業時間を見ると、12:00-14:30が昼休み。嗚呼なんて人間的な職場なんだ。でも日本だったらツィッターなどで悪意にあふれた痛罵が散弾銃のように浴びせられるのだろうなあ。あーやだやだ。 やってきたバスに乗り込み、十数分でシルス・マリア(Sils-Maria)に着きました。ここはニーチェが1881年から88年まで過ごした町で、彼の記念館があります。ということは『ツァラトゥストラはこう語った』はここで執筆されたわけだ。お恥ずかしい話、私が読んだのは『悲劇の誕生』と『この人を見よ』だけです。馬車の溜まり場がありましたが、これに乗ってフェックス(Fex)谷と往復することも可能です。ホテル・シュバイツァーホフの隣にあるゲートが、ハイキングの出発点。ここから川に沿った細い道を上っていきます。十分ほど歩くと森を抜け、視野が開かれ、広大なアルプ(夏季放牧場)となります。 いよいよここからが、ベルニナ・アルプスに向かって南に延びるエンガディンの支谷、フェックス(Fex)谷です。ここからホテル・フェックスまで歩いて同じ道を戻って来るのがハイキング・コースで、距離は往復で約12km、所要時間約3時間、高低差163m。静かな谷を歩く穏やかで爽やかなハイキングが楽しめるとのことです。 本日の五枚、上から三枚目がニーチェ記念館です。 #
by sabasaba13
| 2015-10-29 06:34
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それではすこし散歩をしてから夕食をとることにしましょう。ロープウェイ駅前からサン・モリッツ駅までのバスの時刻表をチェック、一時間に一本でした。ホテルの全景をカメラにおさめ、さきほど通った湖に向かってのんびりと道を下っていきます。
十分ほど歩くと湖畔に着きました。清冽な青い湖面、険峻な山々、緑の木々、一幅の絵のような光景にしばし見惚れました。犬を連れて散歩をする地元の方々も、幸せそうです。なお「犬の糞はゴミ箱へ」という意味のピクトグラムには「DANKE ― GRAZIE」と、ドイツ語・イタリア語で表記してありました。あの山の向こうはもうイタリアなのですね。 ホテルに戻る途中で、「rivella」という店に入り、ピッツァとサラダをいただきました。咲き乱れる野草を撮影して、"うち"に戻り、シャワーを浴びて外に出て、夕日に映える雲を見ながらビールを飲み干す。…至福… 馬車馬・汽車犬のように働いた甲斐があったというものです。 部屋に入りテレビをつけると、列車事故のニュースを放映していました。 帰国後に朝日新聞DIGITALで確認すると、下記のような事故でした。 スイス南東部グラウビュンデン州ティーフェンカステル近くの山間部で13日午後0時半(日本時間午後7時半)ごろ、アルプス観光の山岳鉄道「レーティッシュ鉄道」の列車(8両編成)が崩れた土砂に突っ込み、客車3両が脱線した。日本人6人が乗車しており、うち5人が重軽傷を負った。(中略)とにもかくにも、この事故に巻き込まれた可能性もあったわけです。二人で無事にここまで来られた僥倖に感謝して、グラスを合わせました。明日は、シルス・マリア(Sils-Maria)に行き、フェックス(Fex)谷でハイキングをする予定です。 本日の三枚です。 #
by sabasaba13
| 2015-10-28 06:13
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そうこうしているうちに、15:29に列車はサン・モリッツ駅に到着しました。列車から降りて、まずは"シャンパン気候"と呼ばれる爽快な空気を深呼吸。気がつけば青空が見えてきました。さすがは晴天日が年間平均322日のサン・モリッツ、これからは「歩くサン・モリッツ」と自称しようかな。余談ですが、ここサン・モリッツは北海道倶知安市町と姉妹都市だそうです。スイスに縁の深い秩父宮が冬のニセコを訪れた際、新聞に『極東のサン・モリッツ』と書いたことがきっかけだそうな。駅の窓口で、四日後に乗車する氷河急行の昼食を予約し、売店でビールを購入。駅のiで今夜の塒、ホテル「ニラ・アルピナ(Nira Alpina)」までのアクセスを訊ねたら、親切にもホテルに電話をしてくれて送迎を要請してくれました。駅のカフェで珈琲を飲みながら待っていると、ミルクの蓋はパウル・クレーの絵でした。さすがはスイス。
しばらくしてホテルの送迎車が到着、お礼を言って乗り込みました。車はサン・モリッツ湖、チャンプフェー湖を通り過ぎ、坂道をすこしのぼって二十分ほどでホテルに着きました。このあたりはスールレイ(Surlej)という地で、ホテルの目の前に、サン・モリッツ周辺で最も高所にあるコルヴァッチ(Corvatsch)展望台へとのぼるロープウェイ駅があります。 フロントでチェックインをするとエンガディン(Engadin)・カードをくれましたが、これでロープウェイをはじめすべての公共輸送機関を無料で利用できるとのこと。素晴らしい! なお部屋はダブル・ベッドですが、要望すればツイン・ベッドに直してくれるそうです。山ノ神は「お願いします」と即答、曰く「うちの旦那はnoisy」。ん? ノイジー… 五月蠅い… ?… 鼾か! 反論もできずに沈黙を守りました。テラスに出ると、おお素晴らしい、眼前に峨々たる山々が屹立しています。 しばし美しい風景に見惚れながら待っていると、準備ができたと呼びに来てくれました。案内された部屋は内装も調度品も高級感に満ちたもので、快適な時間が過ごせそうです。浴室・洗面所も申し分なし。ガラス戸を開けて外へ出ると、緑の芝生と地続きになっており、さきほど見た山並みを一望できました。実は、事前にサン・モリッツについて調べている時に見つけたホテルで、ぜひ泊まってみたいと念願して予約しました。その期待は外れず、大満足です。山ノ神もいたく気に入ったようで、嬉しく思います。なお彼女はホテルが気に入ると「うち」と呼ぶ癖があり、以後「うちへ帰ろう」「うちの近く」と連発することになります。部屋に戻るとニーチェの『ツァラトゥストラはこう語った』が置いてありましたが、この部屋だったら完読できそうです。ドイツ語でしたから無理ですが。 本日の一枚です。 #
by sabasaba13
| 2015-10-27 06:45
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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